偽りの色彩をきっぱりと拒絶する

マティス「赤のハーモニー」
マティス「赤のハーモニー」

マティスの代表作

◆1908年「赤い部屋(赤のハーモニー)」について◆

 

 

このマティスの代表作は、180cm×220cmという大きな作品で、画面の大半を「赤色」が占めています。赤のもっているエネルギーが絵を見る者に、降り注ぐような作品です。

 

本物を見て、「赤の力を生で感じる」のが一番ですが、それが不可能なら、ここではマティスの考え抜いた色の調和を分析してみましょう。

 

 

主調色は赤

①室内の壁、テーブルの敷物、すべてが赤く塗りつぶされている。

 

赤と緑が反対色相

②それらの赤が、窓枠の外の緑と対比色になっている。

 

 

橙と青が補色色相

③窓枠のオレンジと、女性とアラベスク模様が対比色になっている。

 

 

しかし、強烈な色の衝突ながら、

 

共鳴しあう色

③橙の窓枠と、赤と緑の中間に当たる黄色が、点在していて窓の外と中に描かれていて、それほど強烈さを感じさせない。

 

④アラベスク模様と、庭木、空の色は、青同士で共鳴している。

⑤遠景の小屋と、窓の縦枠は、橙同士で共鳴している。

⑥椅子の色と、窓の横枠は、黄色で共鳴している。

 

マティスの絵画は、室内の遠近や、造形とは全く関係なく、赤を中心にした色彩自身が自己主張をして、絵の全体を調和に導いているのです。

 

◆◆

アンリ・マティスは20世紀を代表するフランスの画家で「フォーヴィズム」の中心的存在です。フォーヴィズムは野獣派と呼ばれ、大胆な色彩の用い方が特徴です。

 

マティスがダイナミックな色彩を得るまでの経緯は、どのようなものだったのでしょうか。

 

①マティスは1898年、コルシカ島で、ポール・シニャックの著作「ドラクロワから新印象主義」を読み「純粋な色彩」に開眼。

 

マティスは1901年「ゴッホ回顧展」で「色彩による感情表現」に感銘をうける。

 

③後期印象画の画家セザンヌの「色彩による造形」を学ぶ。

 

これらの19世紀の印象派の画家たちに加え、 マティスは師ギュスターブ・モローの次の考えを受け継いだのです。

 

「色彩を考え、

それについての想像力をもたなくてはならない。

想像力を欠くなら、美しい色彩を出すことは決してできない。

想像力をもって、自然を描写しなくてはいけない。

色彩は考えられ、夢みられ、想像されなければらならない。」

 

その結果、マティスは絵画の「平面性を重視し、純粋な原色によって対象物を捉え、その生命力や精神性を『色彩』によって表現すること」を発見します。

 

 

「フォーヴィズム」という絵画運動は、偽りの色彩をきっぱりと拒絶することから、始まって、強烈で知覚しやすい色彩を用いることになります。